社員全体に組織・個人と多方面から繰り返し時間をかけて取り組み、禁煙への動機づけ・喫煙率低下・喫煙環境の変化・受動喫煙防止意識への向上につながった
第94回日本産業衛生学会 「A事業所の喫煙率低下及び受動喫煙防止意識向上のための喫煙対策5年間の取組み」より
喫煙の社会環境

喫煙を取り巻く環境は、マナーを守ってタバコを吸う時代から、ルールを守ってタバコを吸わない時代へと移行してきました。
タバコ販売価格の値上げも何度もあり、公共施設は禁煙になりました。
健康経営でも喫煙対策は重要項目となっています。
A事業所は50年前の喫煙状況?
当時支援していたA事業所は、11箇所の分散職場で約150名を抱えていました。
喫煙状況が変化している社会状況でも、2016年度A事業所喫煙率は平均4割、中には8割と50年前の日本のような職場もありました。
当然、支援エリア内でも高い喫煙率でした。

社会的に喫煙しにくい環境に移行しているにもかかわらず、11か所中8か所が喫煙率20%を超えていました。
このことから喫煙率低下に向けた取組みが必要でした。
受動喫煙防止意識の薄さ
A事業所内のある喫煙室は、職場内社員が利用する休憩室の一角にあるにもかかわらず、ドアが解放されたままでした。
理由は「事務所の電話の音が聞こえないから」ということ、大変驚きました。

受動喫煙防止への意識も薄かったです。
A事業所と一緒に取り組む
A事業所の喫煙率低下及び受動喫煙防止に対する意識の向上に向けて、職場と一緒に取組み始めました。
2016年までの喫煙対策
2016年以前より社員個人には、定期健診で全員に呼吸機能検査を追加し、結果がCOPD疑いの方には保健師が受診勧奨をしていました。
健康保険組合に禁煙サポートプログラムがありました。
各所長には健診結果集計で喫煙率を報告していました。
取り組んだ内容
2017年取組み開始時
2017年にA事業所長に現状を報告し、喫煙対策をしたいとお願いしました。
所長は「喫煙室はコミュニケーションの場という認識、所内で気運が高まっていない。時間をかけて取り組んでほしい」とのことでした。
喫煙室の基準満たさなかった空気環境測定と測定後の変化
喫煙室設置の効果の確認のため空気環境の測定を行いました。
測定結果は、境界面風速0.20 m/s未満、粉じん濃度は基準の4倍を超えていました。
内部も外部も受動喫煙のおそれがありました。
しかし、嬉しい変化もありました。
測定後に、喫煙室のドアには解放厳禁と貼り、閉められるようになりました。
誰でも参加 タバコクイズでイベント
受動喫煙防止の意識向上を目的に、喫煙有無に関わらず誰でも参加できるタバコクイズイベントをしました。
3日間タバコクイズと資料展示のため、保健師が在室しました。

クイズ「タバコを吸うとストレス解消になるか」には、喫煙者全員「ストレス解消になる」と回答しました。認知のゆがみを感じました。
喫煙有無にかかわらず参加したことで、タバコを吸わない人の意見、禁煙した体験談を伺うことができました。
2020年 原則屋内禁煙
健康増進法一部改正で原則屋内禁煙となりました。
A事業所も屋外に喫煙所を設置しました。
しかし健康診断期間中は不特定多数が受動喫煙となるため、事業所が率先して「敷地内全面禁煙」と案内表示してくれました。
社員側も健康診断期間と理解し、「今は吸えないね」と快くルールを守っていました。

2020年禁煙成功者へのインタビュー
A事業所長から「禁煙者が何人か出てきている」と報告がありました。
禁煙継続や禁煙希望者の参考となると考え、1年以内に禁煙した社員8人のうち6人にインタビューしました。
禁煙のきっかけはいくつかの理由が重なっていました。
「吸う場所が限られる」は、回答者の半数おり、屋内禁煙の効果も感じられました。
特徴的理由として「職種を続けられるか不安になった」という理由もありました。
実際に喫煙対策を継続したA事業所は、エリア全体よりも、1年以内に禁煙者の割合が多い傾向にありました。

この内容は安全衛生委員会で報告し、良い環境変化を共有しました。
その他サポート
社員と会う度に、喫煙について話題にし、積極的に声をかけました。
所長に喫煙状況について、都度情報共有しました。
2017から2020年、安全衛生委員会の場を利用した衛生講話で喫煙対策のテーマを実施しました。
時系列変化
2016~2020年取組み前後の喫煙率の変化

2016~2020年の喫煙率の推移はA事業所41%から30%に推移し、エリア全体に迫るまで減少しました。
2016~2020年取組み前後の社員や職場の変化
2016年以前、組織では喫煙室はコミュニケーションの場として寛げる環境でした。
社員も電話の音が聞こえることを優先し分煙されていませんでした。
「タバコの害の研究結果は改ざんされている。」等ゆがんだ認知もみられました。
ところが、職場と一緒に取り組みをすすめていくうちに、職場の方から、
などの相談が寄せられるようになりました。
2019年には10年以上COPD疑いの紹介状発行の社員が受診しました。

支援を継続し徐々に組織や個人の変化がみられました。
喫煙対策を継続して
喫煙対策について都度、組織と共有していく中で、喫煙対策の視点が養われました。
社会的流れも加わり、社員個人にも徐々に意識変化がみられました。
以前からも個別の禁煙指導はありましたが、A事業所は6割が50歳以上で喫煙歴も長く、個別アプローチだけでは難しいと感じていました。
しかし喫煙の有無にかかわらず、社員全体に多方面から繰り返し時間をかけて取り組むことが、禁煙への動機づけ・喫煙率低下・喫煙環境の変化・受動喫煙防止意識への向上につながったと考えられました。
A事業所の社員はトップダウンや法令遵守の意識が高い傾向がありました。
法改正の屋内禁煙化はA事業所の喫煙率低下及び受動喫煙防止への意識向上をすすめる後押しになったと考えられました。
第94回日本産業衛生学会 A事業所の喫煙率低下及び受動喫煙防止意識向上のための喫煙対策5年間の取組み の学会発表より
代表 野口 有美子 (のぐち ゆみこ)
事業内容 企業等に定期健康診断後の保健指導、健康テーマの研修、健康経営の相談、メンタルヘルス対策、治療と仕事の両立支援、産業医や主治医・地域との連携等、健康管理のサービスの提供。働く人々の疾病予防、健康の維持増進。
保有資格 保健師 看護師 養護教諭一種 第一種衛生管理者免許 健康経営エキスパートアドバイザー(認定番号 EX23002053) メンタルヘルス対策・両立支援促進員 認定フェムテックエキスパート
職歴
2002年 公益財団法人石川県成人病予防センターの保健師として、4年間石川県内の自治体や企業の健康診断、保健指導に従事。
2006年 西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)金沢健康増進センターの産業保健師として17年間、社員約3,000人を支援。
各種健康診断、保健指導、健康相談、メンタルへルス支援、健康増進企画運営、健康経営など新入社員からシニア社員まで幅広く社員の健康管理を経験。
2023年4月より 石川産業保健総合支援センターの登録保健師として50人未満の中小企業の健康管理を支援中。
2023年5月より 野口保健師事務所 開業
2024年4~8月 石川県立看護大学 臨時助手
2024年4月より 金城大学公衆衛生看護学専攻科 産業保健活動論 非常勤講師
所属団体
日本産業衛生学会 産業保健看護部会 日本看護協会 石川県看護協会 石川県中小企業家同友会 金沢市倫理法人会 日本開業保健師協会 NPO法人禁煙ねット石川 産業保健オンラインコミュニティ(通称COEDOH) NPO法人子育て支援 はぐはぐそのままでいいよ 女性起業家交流会 in HOKURIKU(JKK)
学会発表
第87回日本産業衛生学会「イコちゃんカップ」ウォークラリーの 拡大定着に向けた取り組み
2014年日本産業衛生学会の生涯教育ガイドラインGood Practice事例に記載「イコちゃんカップ」ウォークラリーの拡大定着に向けた取り組み
第92回日本産業衛生学会 35歳時保健指導前後の定期健康診断結果の変化からみた若年支援の効果について
第94回日本産業衛生学会 A事業所の喫煙率低下及び受動喫煙防止意識向上のための喫煙対策5年間の取組み
第99回日本産業衛生学会 中規模事業所への開業保健師介入による従業員の健康意識の変化と保健師の役割

